infection院内感染対策

b.ハウスキーピング表面

患者さん目線の清潔

患者さん目線での清潔はその医院の滅菌システムにあるのではなく、CDCのいうハウスキーピング表面(床、壁、流し台など)の清潔度にあるのではないかと考えているのです。ここでは臨床的接触表面以外の診療室のすべてをハウスキーイング表面と考えて対策をとっていきます。
例えば、玄関の植木の落ち葉が半分腐ってフロアーに落ちているし、植木の砂も落ちてこぼれている。
靴入れには靴から落ちた汚れがたまっている。トイレに入ったら隅にゴミとほこりがたまり、何となく便器も汚れている。待合室で本を読んでいてふと横の置き物を見たらほこりだらけでした。
驚くことに、診療室の中を細かく観察してみるとそのとおりになっていたのです。しかし過ぎてしまったことを後悔してもしょうがない、とにかく早く始めることが大切と気持ちを入れかえて対策を始めたのです。
図中央で目を光らせているのはもちろん患者さんです。患者さんは結構隅々までよく見ているのです。

取組みの具体例

院内清掃も実際に取り組み始めると結構難しい。何もかも掃除を始めれば「大掃除」になってしまう。年に1度だけ奇麗になってもしょうがない、目的は常時清潔です。そして目こぼしがあってはなりません。行動目標を①患者さん目線での清潔と②実践可能の2点に絞ってスタッフミーティングを繰り返し試行錯誤を続けていくのです。
これからお話することは1つの取組みの例として受け取って下さい.基本的な考え方は共通部分が多いと思いますが、細かい実施方法はそれぞれの歯科医院でモディファイすることが必要です。
まず、患者さんの目線の触れる可能性のある場所を清掃エリアとしてすべてピックアップします(①)、そして次に、稼働スタッフ数に応じてできるだけ労働力が均等になるように清掃エリアを振り分けます(②)、最後に清掃エリア内の清掃部位を毎日、毎週、毎月(隔月)に振り分けていく(③)のです。

実際に例をあげて話をしないと、分かりづらいと思うので、ここでは私の診療室を例にとって話を進めていきます。それぞれの歯科医院ではスタッフ数や広さなどを考慮して区分けすることになります。
スタッフ数が6人なので、診療室を次の6つのエリアに区分けしました。
①玄関、受付、待合室、男女トイレ
②ステーション1、画像診断室、ステーション2、中央保管コーナー、ステーション3、X線現像ステーション
③チェーアーユニットA,B
④チェーアーユニットC,D
⑤チェーアーユニットE,F
⑥滅菌・消毒エリア
滅菌・消毒エリアは専属のスタッフがいるので、担当はその人が専任で行ないます。あとの5つのエリア担当はスタッフ5人の1週間毎のローテーションで行なっています。

清掃部位の頻度分け

①玄関、受付、待合室、男女トイレ
②ステーション1、画像診断室、ステーション2、中央保管コーナー、ステーション3、X線現像ステーション
③チェーアーユニットA,B
④チェーアーユニットC,D
⑤チェーアーユニットE,F
⑥滅菌・消毒エリア
の6つのエリアの担当がそれぞれ毎日終業時に行なう清掃部位を明確にしていきます。そして毎日必要でなくても週に1回清掃する重点部位もチェックしていきます。そして最後に隔月で行なう大掃除の部位もリストアップしていくのです。毎日と毎週(土曜日)は通常診療終了後に行います。そして隔月は午後の診療を休診して大掃除とスタッフミーティングを行なっているのです。当初は毎月行なっていたのですが汚れ具合から2ヶ月に一度で十分と判断したのです。
滅多にないけれど、たまに担当の衛生士が患者さんから「ここの診療室、どこみても汚れがない、ほんと奇麗」などと言われているのを聞くと、ウッシッシとなるのです(単純…)。

清掃頻度の具体例1

玄関、受付、待合室、トイレのうち、玄関に絞って毎日項目、毎週項目、隔月項目の具体例を見ていくことにします。実際には玄関だけではなく、受付、待合室、トイレ、などここに上がっているすべてのエリアを毎日項目、毎週項目、隔月項目に分けて清掃部位をピックアップする作業が必要になります。

まず、玄関の毎日項目です。ここは見て頂くだけで理解できるので説明は省きます。

次に、玄関の毎週項目をピックアップしていきます、毎日項目との間には明確な線引きなどありませんが目こぼしのないように、毎日項目にプラスαの視点です。

自動ドアーのレール、ガラス窓、ドアサッシなど、普段目に付きにくい場所を見ていきます。

隔月項目は毎週項目よりさらに目の届きにくい所を探しピックアップしていきます。

エアコンのフィルター、壁の汚れ、照明器具、換気扇、ブラインド、ガラスなどを清掃していきます。2ヶ月に一度のいわゆる大掃除の項目は毎日、毎週項目にプラスαの視点で作業を進めていくのです。

清掃頻度の具体例2

もう1つだけ具体例を示していくことにします。診療ユニット周辺のハウスキーピング表面と考えられる場所の清掃頻度に対する例です、この部位は臨床的接触表面と隣接している場所である為、多くの場合消毒薬を使っての清拭をすることが多い場所でもあります。1日の終業時に行なっている所です。

毎回行なう必要がなくても、1日に一度は清掃しておかなければならないと考えている場所の1例です。
ここは診療中直接触れる可能性が低い場所であることから、診療エリアですがハウスキーピング表面と考えて対応しています。

毎週項目は毎週土曜日の終業時に重点的に行なう場所です、毎日項目にプラスαの考え方で対応しています。

キャビネットの棚の中、ブラインド、モニター機器、あるいは各種のユニット外機器、そして手洗い下のスペースにある廃棄物処理および清掃などが毎週項目の重点になります。

診療ユニット周辺の隔月項目です。2ヶ月に1度の大掃除の時に忘れないようにチェックし清掃する場所です.普段目の届きにくい場所が中心になります。大掃除の日は毎日項目、毎週項目にプラスαとして重点清掃していきます。

普段忙しい診療の中で使いっぱなしになっている歯科材料、薬品や引き出しの中の清掃・整頓を行ないます。又普段目の届きにくい高い場所の窓ガラス、照明器具、換気扇、あるいは床のしみ、黄ばみなどもチェックし清掃します。隔月項目の中には滅菌バッグの日付けチェックという大事な作業があります。滅菌後2ヶ月未使用のものはすべて再滅菌に廻されるのです。
ハウスキーピング表面の清掃頻度の例を2つあげて考え方を整理してきました。自分たちの経験から、清潔な診療所の維持は「院長も含めたスタッフ全員の参加」が大きなキーポイントになるようです。