infection院内感染対策

11Cr形成時の器具類滅菌システムと使用ルール

バーの汚染

支台歯形成に使用したバー類をコロンビア5%羊血液寒天培地で24時間培養した結果が右側です。
見ためには血液の付着もなく不潔なものには見えませんが、培養後にはバーの周辺には多数の細菌のコロニーが形成されており、使用済みのバー類が不潔なものであることが分かります。

バー類の滅菌

私たちが行ったアンケート調査結果から、まだかなりの歯科医療機関がバー類を薬液消毒で済ませていることが分かっています。
使用している代表的な薬剤が左上に示してあります。商品名を一般名で郡に分けたものがA,B,Cなどのアルファベットです。各消毒剤の対象微生物への薬効を見て下さい。
使用薬剤の多くが十分な薬効を持っていない事が分かります。
次亜塩素酸ソーダは金属類の腐食を起こし、グルタルアルデヒドは室内に有害な蒸発ガスが出るなどから使用を避けなければなりません。バー類は歯髄や歯周組織などの組織を穿通する可能性があることから、滅菌で対応していかなければなりません。

バーセット

バーは自分が使用し易いようにセットを組んでおくと便利です。

A.Cr形成、窩洞形成用にセットを組んだものです、使用済みのバーを収納するシャーレとセットになっています(オートクレーブ滅菌)
B.築造などの根管形成用に組まれたセットです(EOG滅菌)
C.Cr調整用に組まれたストレートハンドピース用のセットです(EOG滅菌)

形成用バーセット

バースタンドはこのように蓋付きのものを使用します。滅菌作業中にバーが抜け落ちてしまわないようにするためです。
村井歯科ではハイスピード用のバーが6本(前列の5本と2列目の1本)とマイクロモーター用のバー2本(3列目)がセットになっています。
ラウンドバー(スチール製)やカーバイトバー類はオートクレーブでの腐食が起こるため、EOG滅菌され他に保管されています。基本バーセットには同色(3色ある)のテープの巻かれたシャーレが必ずセットになっています。治療中、使用済みのバーをこの中にいれていきます。消毒コーナーでの器具類の片付け時の混乱を避けることができます。

根管形成用バーセット

ポスト形成時は使用するバーの種類が多いので、このようなセットを組んでおくと便利です。このセットでポストの形成から印象までの一連の処置が可能です。これらのバー類はスチール製のものが多くオートクレーブでは錆びてしまうため、EOG滅菌されています。
EOGがない場合はグルタラール製剤で消毒していくことになります。

予備・補充用バー

新品の予備バーや補充用のバーはこのように1本ずつ滅菌パックにパッキングされています。ちょうど機関銃の弾のようになっており、取り出す時は左右から行います。
スチール製のラウンドバーやカーバイト製のバーはオートクレーブでは錆びてしまうため、PMTC用のバー等と同様にEOG滅菌されて保管されています。

滅菌で軽視されがちなストレートハンドピース用のバーも、クラウン超製時やインレイ超製時に往々にして出血を伴うことからEOG滅菌されています。

切削器具類の滅菌

各種のハンドピース類は使用後まずアルコールで精拭します。その後注油し滅菌バッグにパッキングしオートクレーブ滅菌します。
ハンドピース類はサックバックによる内部汚染の可能性があるため、外部だけの薬液消毒では不十分です。また薬液への侵漬やEOGはハンドピース内の細部まで薬液やEOガスが浸透しない可能性があるため、オートクレーブ滅菌が不可欠だといわれています。

バー類の滅菌の流れ

オートクレーブ使用

  • ①治療が終了したら手指を汚染させないように、ピンセットを利用して器具類の片付けをします。

  • ②消毒コーナーにおいても同様にピンセットを使用して器具の振り分け、片付けをします。

  • ③これらの器具類は纏まった時点(午前1回、午後1回)で作業するので、一時的にこのように保管しておきます。

  • ④纏まった時点で、シャーレに入った使用済みのバーを清掃しながらバースタンドに戻していきます。バースタンドとシャーレは同色のテープが巻かれており、組み合わせを間違えないような工夫がしてあります。
    消毒係の人はグローブが二重になっており、二重グローブの人だけは不潔なものに直接手指を触れてもいいルールになっています(5.グローブの着用とグローブ着用手指の順守事項 を参照してください)。

  • ⑤その後、超音波洗浄器で30分間超音波洗浄する。

  • ⑥市販の食器洗い機で30分間洗浄する。

  • ⑦バーセット1個ずつ滅菌バッグにパッキングする。

  • ⑧その後オートクレーブ滅菌をする。現在121℃で25分の滅菌パターンを実施している。

EOG使用

  • ①スチールバー、プラスチック製バー、ゴム製バー、紙製バー、カーバイトバー等は腐食、変性などの問題からオートクレーブが使用できないことから、他の滅菌方法をとらなければなりません。

  • ②オートクレーブで滅菌できるバー類と共に30分間の超音波洗浄を行います。

  • ③その後、スチールバー、プラスチック製バー、ゴム製バー、カーバイトバー等はグルタラール製剤に1時間侵漬します。

  • ④再汚染させないように、気銃等で乾燥させる(EOGを使用していない歯科医院はこの後、種類毎に区分けし密閉された容器に保管することになります)。

  • ⑤週2回のEOG滅菌にそなえて清潔な場所に一時的に保管されます。

  • ⑥種類別に一本ずつ滅菌バッグにパッキングします。

  • ⑦シーラーでシールした時、このように日付けが入るようになっています。

  • ⑧休みの前日(水曜日と土曜日)にEOG滅菌をセットする(滅菌と消毒のシステム構築、b.EOG も参照してください)。

Cr形成時の器具類の使用ルール

術者の注意点

  • ①未滅菌のグローブを着用していることから、滅菌したものには直接手指を触れることができないため、このようにピンセットを使用してバーの取り出しを行います。

  • ②バーの脱着もこのようにピンセットを使用して行います。もちろん使用済みの汚染されたバーも手指では行わずピンセットを使用します。基本的な考え方は5.グローブの着用とグローブ着用手指の順守事項 を参照してください。

飛沫汚染の防止(口腔外バキューム装置)

  • ①バキュームなしで右上2番の窩洞形成を開始して1分30秒後の飛沫汚染の状況(水回路に染色剤を使用)。これらはハンドピースや3ウェイシリンジの内部汚染源になりえる。

  • ②口腔内バキューム装置を使用すると同じ処置をしても、飛沫汚染をかなり減少させることができるがまだ十分ではない。

  • ③口腔内、口腔外バキュームを併用すると、同様な処置をしてもほぼ飛沫汚染を防止することができる(これらのスライドは神奈川県立こども医療センター 池田正一先生のご好意による)。

補助者の注意点

  • ①Cr形成時や超音波スケーラーでのスケーリング時には、必ず口腔内と口腔外バキュームを併用して飛沫汚染を極力少なくしていきます。
    補助者は口唇や頬粘膜の排除は直接手指を触れないように排除用のミラー(古くなったミラーを排除用専用に利用する)等を使用し、補助業務をこなしていきます。

  • ②バキュームチップの操作時も患者用エプロンやガーゼ等を使用し、手指を汚染させないようにします。

動画

Cr形成・印象時の様子を動画にしてみました。

  • 基本セットの準備の仕方
  • 局所麻酔器具類の取扱い
  • バーの取扱い
  • 補充用バーの取扱い
  • ジンパック時の取扱い

などを見て下さい。滅菌されたものに触れないように処置を進めている様子が分かっていただけると思います。