infection院内感染対策

a.グローブ着用の意味

例えばこのように医療従事者の手に傷があったとします。
この手で治療中に患者Aの創傷面(血液)に触れてしまったとすれば、患者Aの感染症が医療従事者に、あるいは反対に医療従事者自身の感染症を患者Aに伝播させてしまう可能性があります。
そしてその手で、滅菌あるいは消毒された器具類を触ってしまえば、器具類を介して感染症が伝播していく可能性も否定できません。もし手洗いや手指消毒をしないで次の患者Bを治療すれば患者Aと医療従事者自身の感染症を患者Bに、反対に患者Bの感染症が医療従事者に伝播する、いわゆる交叉感染が起こる可能性が考えられます。
それではグローブを着用した場合を考えてみましょう。グローブを着用すればグローブに穴があいてないかぎり患者Aと医療従事者相互の交叉感染は防ぐことができるはずです。しかし、患者Aの治療で汚染されたグローブで他の滅菌あるいは消毒された器具類を触ったりすれば汚染が他に広がり、そのまま患者Bの治療をしたりすれば患者Aの感染症が器具類を介してあるいは直接グローブを介して患者B伝播していく可能性があります。
グローブの着用は・医療従事者の感染症が患者さんへ伝播することを防ぐ、患者さんの感染症が医療従事者へ伝播することを防ぐ、の2つしか保証してくれないのです。
医療従事者の手(グローブ)を介して起こる「患者さんから患者さんへの交叉感染」の予防のためには医療従事者の手(グローブ)の管理をきちっとしておかなければならないのはこのような理由によるものです。

グローブの着用の目的

1992年頃に日本でHIV(エイズ)が大変問題になった時がありました。そのときのマスコミのヒステリックな報道に、私たち歯科医療従事者は先を争うようにグローブの着用を始めました。
そしてその時、メデイアの批判に応えるのに精一杯で「何故」とか「どのように」などの基本的な考え方を整理する前にグローブの着用を習慣化させてしまったのです。いまだに続いている「滅菌グローブ」への呪縛とグローブ着用が医療従事者だけを守る使用目的になっている矛盾はそこで生まれてしまったようです。

グローブ着用の目的が医療従事者と患者さんの両者を守るものでなければならないことから「(1)の医療従事者だけを守る」目的の使用方法は受け入れられないのは明白です。
それでは「(2)の滅菌グローブをその都度交換する」はどうなのでしょう。

患者さんの口腔内に入るものはすべて滅菌されていても、周辺機器はほとんど滅菌できないのが現状です。滅菌グローブを着用した瞬間から滅菌されてないものに全く手を触れずに治療を進めていかなければなりません。私たちは「(2)の滅菌グローブをその都度交換する」を歯科医院では実行不可能だと考えています。

現在、村井歯科では未滅菌の安価なグローブを着用しながら、滅菌システムを崩さない方法を模索しながら実践しています。