infection院内感染対策

c.診療用ユニット水回路の汚染対策

水質汚染3つの原因

ユニットの水回路の水質汚染を引き起こす主な原因は次の3つであるようです。
その1つの、
「1.ユニットに附属したハンドピース類への逆流」に関してはすでに18-a.各種ハンドピース類の滅菌システムと18-b.超音波スケーラーの滅菌・消毒システムに記載してありますので、そちらを参照して下さい。
「2.給水管路のチューブ内にバイオフィルムが形成される」についてはほとんどのユニットメーカーで「給水系のチューブ内にバイオフィルムが形成され、治療時の歯科用ユニット水中に従属栄養性水生菌が存在しても、人に直接有害とはならないという理由で対策が行われていない」のが現状のようです。しかし、配管内のバイオフィルムははがれ落ち給水内に流れ込むことで水質の汚染が起こるといわれています。難しいとはいえ、なぜメーカーが対策を取ろうとしないのか理解ができないのです。ここでは、実際に自医院で調べた汚染の状況とすでに対策をとっている数社のメーカー(自分が知る限り)が行っている方法について紹介します。
「3.給水の残留塩素濃度が著しく低下してしまう」ではユニットに入るまでの水道水は水道法施行規則で定められた塩素濃度を保っているのですがユニット内を通過している間に残量塩素濃度が低下(時に0)してしまい、水道水の水質さえ維持できないのです。自医院の残量塩素濃度の低下の現状とそれに対する現在の対策を示します。

ユニット配管内の細菌数

10数年前にアメリカでこの事実が問題になった頃、ある雑誌に記載されていた記事から抜粋した数値です。もう手元にはその記事がないので出典が明らかにできませんが、CLINICAL RESEARCH ASSOCIATIONから出されたものであることは記憶しています。
それによると、水道本管中に2CFU/mlだったものが、一段細くなった引き込み管では10000CFU/mlになり、ユニット中心部の細い配管内部では400000CFU/mlまで増加し、ユニット排出口付近、いわゆるハンドピース取り付け部分では100000CFU/mlになるというものでした。
ここに出ている数値は2006年5月に自分の旧治療室のユニットの各給水回路から排出される水質を調べた結果です。一番多かったのがエアータービンの1.0×1000CFU/mlで、次が3ウェイシリンジの5.2×100CFU/ml、そしてマイクロモーターが2.3×100CFU/mlでした。複雑な細い配管を経由していないコップの給水は9.4×10CFU/mlと唯一水道法に規定されている100CFU/ml以下の水準をかろうじて維持していました。
調べたユニットは十数年使用している古いもので、水回路に対する特別な対応は施されていない機種でした。しかし、水道水よりかなり汚染が進んでおり、対策の必要性を強く感じたのでした。

残留塩素濃度の低下

2005年の厚労省医薬技術評価総合研究事業報告書の中に歯科ユニットの給水回路における水道水の残留塩素濃度についての報告があります。それによると管理の良いユニットでもエアータービン等の水を15分から30分ほど流し続けないと残留塩素濃度が上がってこないことが分かります。
管理の悪いユニットでは各給水系の水を流し続けて8時間以上経たないと残留塩素濃度が規定値まで上がらないとあります。
これらは、配管内のバイオフィルムが水道水中の塩素を消費するからだと言われており、塩素の消毒効果が全くなくなった雨水のような水が口腔内に注水されていることになります。
日本の水道法施行規則では0.1mg/L (ppm)以上の塩素濃度が必要と規定されているようですが、愛知県の場合は途中の塩素濃度の低下を見越して、最初浄水場からは塩素濃度は0.4~0.5mg/Lに調整され配水されているそうです。3年ほど前、図のような残留塩素系を使用して、自医院の各条件のユニットから排出される水道水の残留塩素濃度を調べてみたことがあります。
家庭の水道水でも蛇口の朝一番の水にはほとんど残留塩素がないようで、これは長時間の間、水が滞留することで起こる現象のようです。
治療用ユニットにも同様なことがおこっており、治療開始時の水道水の残留塩素濃度がかなり低下していることが分かります(データ中)。特に休み明けの朝一番の水道水には残留塩素濃度が0になっているものもあり(データ右)、注意が必要です。
今回調べた自医院のユニットは水道水の消毒システムを有するもので、水質の維持には配慮した機種のため、15~30秒ほどの水の排出で塩素濃度が回復し治療中はほぼ規定の塩素濃度が維持できていることが分かりました(データ左)。

歯科用ユニット水質改善戦略

CDCでは水質改善のため「患者終了毎に各ハンドピースの20~30秒の空気と水の排出」を推奨しています。しかし一方で図にあるように、それだけでは対策が不十分だとしています。
給水中の微生物の汚染を抑制するためには給水内に化学消毒剤使用やマイクロフィルターの設置、あるいはその両者を組み合わせるなどが有効であるとなっています。どちらにしても自分たちだけでは対策が困難で、ユニットメーカーや水質改善のための専門の業者などに相談しなければ根本対策は難しいことになります。
5年前の医院の建替えの時に消毒システムを持つ歯科用ユニットを探したのですが、選択肢は多くはありませんでした。ドイツ製で2社ありましたが、国産の対応機種は1つもなかったからです。結局、ドイツ製のシロナ社の機種を選択することになったのです。
この機種は1%オキシドール液を入れるタンクがユニット内に用意されており診療中は水道水の中に消毒液が随時滴下することによって消毒を行うようになっています。各ハンドピースの使用によりその消毒された水道水が末端の配管まで行き渡ることによって効果がでる構造になっているのです。
実際に使用し始めてから、この機種に本当に効果がでているのかどうか調べてみたことがあります。
驚いたことに機種を選択しただけでは問題が解決しておらず、使用の仕方に注意が必要だったのです。一番右のデータ、これは月曜日の朝一番の水質検査値です。かなりの細菌数が確認されます。
これはたとえ消毒システムを有する機種でもユニット内の水の長時間の停滞があると水質の悪化が起こるということです。次は真ん中のデータ、診療後全ての水の排出口から新鮮な水道水の排出(空ぶかし)を行っていないと翌日の朝一番の水質の悪化が起こるのです。補助用の3ウェイのように使用していない回路は特に汚染が進んでいるのです。
左のデータ、診療終了後全ての排出口(ハンドピース取り付け部)から30秒間の水の排出を行ったユニットの翌日の朝一番のデータです。薬液消毒の効果がでているようです。

自医院での具体的対応

この項の最初に「給水管路のチューブ内にバイオフィルムが形成される」「給水の残留塩素濃度が著しく低下してしまう」の2つの対応が重要であると述べてきました。その対応のために治療用ユニットも循環水消毒システムを有する機種に交換するなどしてきました。しかしそれだけでは問題解決しないことも分かり、現在ではここに示した対策ををとっています。
私自身の乗っている車は「汚い車だね~」と感心されるくらいで、病的な潔癖性では決してないのです。ただ歯科治療ユニットから出てくる水が水道水のレベルすら維持できない現状、この「負い目」をもちながらちょっと診療はできないな~と考えているだけなのです。

メーカーの対応例

日本のメーカーモリタ社の対策です。使用している化学消毒剤はオキシドールで濃度は0.1%のようです。フラッシング装置を使用し残留水の排出を行った後、薬液によって配水管路の消毒を夜間、休日に行うシステムになっています。

残留水排出の手順を見ても、水質改善のために各ハンドピース類からかなり長時間の排出を求めているのが分かります。

ドイツカボ社の対応です。カボ社はユニット稼働中の継続的消毒システムと24時間以上ユニットが稼働しない時の集中的消毒システムの2つの消毒システムがあります。どちらにしても化学的消毒剤による水道水の消毒法だといっていいでしょう。

メーカー指定の薬剤は「オキシナゲル6」でオキシドール系の薬剤のようです。そしてユニット稼働中は0.025%濃度で継続的な消毒を行うシステムになっているようです。

また、24時間以上ユニットを稼働しない時には0.25%溶液で集中的にユニット内を消毒するシステムも有しています。この2種類の消毒システムで水質の改善・維持を計っています。

これは、私たちが使用しているドイツ、シロナ社の対応です。メーカー指定の3%オキシドール液を精製水で3倍希釈したものを使用しています。ユニット可動中は1%オキシドール液が給水回路内に随時滴下されることで継続的な消毒を行うシステムになっています。

メーカー側の説明書には「サニテーションは4週間毎に行なってください。または、病原菌数が1ml当たりで明らかに100個を超えた場合もサニテーションが必要です。このようにすると、給水経路における微生物を効果的に殺菌できます」とあります。
このように専用の器具を使用し、各回路内の水を抜き取ってから、1%オキシドール溶液を回路内に充満させ24時間消毒をするシステムです。休み明けの朝一番に各ホースから完全に消毒薬を抜き取ってから診療を開始します。

ユニットメーカー以外に給水回路の水消毒システムを開発している会社があるので紹介します。株式界社エピオスでホームページ上の製品紹介では残留塩素濃度補正システム「エピオス エコシステム」となっています。「使用されるのは電解中性水・中性機能水・中性除菌水などと呼ばれているもので、高い除菌力を持つと同時に安全であることが知られている電解機能水です」となっています。ここで、紹介したメーカーの対応例については、自分が実際に使用していない機種類が多く含まれています。内容が不十分であったり、時に解釈間違いが含まれているかもしれません、興味のある先生は自分で直接確認されることをお勧めします。