infection院内感染対策

b.超音波スケーラーの滅菌・消毒システム

超音波スケーラーのチップの消毒に対するA県の歯科医院の回答です。薬液での消毒が全体の58%を占めており患者ごとの滅菌は39%にとどまっています。しかしここでの質問は「チップ」となっており「ハンドピース」本体の扱いではないことに注目してください。
このアンケートの原案が15年程前につくられたことから、本体の滅菌まで考えが及ばなかったからです。

超音波スケーラーへの逆流があるのかどうか、ハンドピース類に行ったような簡単な実験を行ってみました。外部注水機能を持ったナカニシのバリオスの結果が右上です。肉眼的に染め出し液の排出は起きていないようです。一方ユニットの給水、給気系につながっているエアースケーラーには、写真では見にくいのですが最初の1、2回にはわずかですが染め出し液の排出が認められます。
ユニットにつながっているエアースケラーには高速ハンドピースなどと比べて量は僅かですが逆流が起きている可能性があるようです。

超音波スケーラーにはその使用法によりハンドピース類にはない大きな問題点を抱えています。
下の使用済みの超音波スケーラーのハンドピースの表面をよく見て下さい。
スケーリング時などの高出力による使用で、このように超音波スケーラーの振動による血液等の飛沫汚染がひどく起こってしまうのです。

当医院には超音波スケーラーには2通りの使用方法があります。1つはスケーリングに使用するものともう1つはポケット内の洗浄・消毒に使用するものとで使用方法が違うのです。スケーリングに使用するのはユニットに附属するエアースケーラーで、使用後その都度オートクレーブ滅菌されます。
一方、当医院ではポケット内の処置(歯周検査.スケーリング、ルートプレーニング、歯周外科)の前には必ずポケット内の洗浄・消毒を行っています(詳しくはb.プロービング・ルートプレーニング時の口腔内消毒を参照してください)。しかし、歯科衛生士4人のハンドピースの使用頻度が多くオートクレーブ滅菌が追いつかない現実があります。日によって若干異なりますが、1日20〜30回の使用回数があり、30本以上ハンドピースを用意しなければ滅菌サイクルに乗らない計算になります。そのために、ポケット内洗浄・消毒に使用する超音波スケーラーのハンドピースは飛沫汚染を起こさないよう低出力で使用し、使用後はグルタラール製剤で消毒する使用方法をとっているのです。

スケーリングのように高出力で使用する時は、必ずユニットに附属するエアースケーラーを使用し、使用後はその都度パッキングされオートクレーブ滅菌される。歯周外科時に使用する超音波スケーラーも同様にオートクレーブ滅菌されます。
使用頻度の高いポケット内洗浄・消毒には外部注水機能を持つナカニシのバリオスを使用しています。
この機器では高出力にしてスケーリングなどを行わないように(右下)ルールを決めておきます。ポケット内洗浄・消毒時には飛沫汚染を引き起こさないように出力の弱いPモードでパワーレンジも1、2で使用してます。

ポケット内洗浄・消毒に使用したバリオスのハンドピースは外部をアルコール綿で掃拭します(①)。その後グルタラール製剤に浸漬します(②)。グルタラール製剤は2つの容器(③)が用意されており、上が浸浸後間もないもの、下が1時間以上浸漬が終わって使用が可能になっているものです。下のハンドピースが無くなると上下の浸漬容器を入れかえて使用済みのものは上の容器に入れるようにします。下の容器は浸漬時間の古いものから使用する。浸漬時間の管理はこのように12本のハンドピースのローテーションを守ることで行っています。根拠はないのですが、プラスチック製のハンドピースが本当に加熱滅菌に耐えられるのだろうかという漠然とした不安が払拭できないのです。メーカーはISO,JIS規格とも250回の耐用回数があればオートクレーブ滅菌可能の表示ができると言っているのですが、250回は余りにも少なすぎると感じるのです。

スケーリング時に飛沫汚染がかなり起こっている可能性があることから、極力補助を付けるように言ってあります。しかしスタッフがギリギリの数であることから難しいのが現状です。
せめて、スケーリング時には口腔外バキューム、排唾管以外にも、口腔内バキュームを有効に利用して飛沫汚染を最小限に抑えるように注意しています(左上)。
ポケット内洗浄・消毒は低出力で使用していることから飛沫がほとんどないと考えられることと、細かい操作に左手のミラーが欠かせないことから口腔外バキュームと排唾管のみで対応しています(右下)。